ゲノム編集におけるガイドRNA

Streptococcus pyogenes CRISPR-Cas9システムは、哺乳動物細胞や他の真核生物のゲノム操作に使用できます。天然のCRISPR-Cas9システムは、Cas9ヌクレアーゼと2つのRNA、スペーサー由来の配列とリピート由来の配列で構成されるCRISPR RNA(crRNA)、および反復由来の配列を介してcrRNAにハイブリダイズするトランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)で構成されます。crRNA:tracrRNA複合体は、Cas9ヌクレアーゼをガイドし、プロトスペーサー隣接モチーフ(protospacer-adjacent motif: PAM)(通常、化膿連鎖球菌のNGG)の上流のDNAを切断します。特定のゲノム位置でDNA二重鎖切断(double strand break: DSB)を作成するガイドRNAを設計することは簡単(PAMサイトを探すだけ)に思えるかもしれません。ゲノム編集が目的の場所でのみ行われるようにするためには、考慮すべき多くの要因があります。これは、意図しない編集やオフターゲットはゲノムの永続的で遺伝的な変化であるためです。

特異性を確保するという課題

ガイドRNAとゲノムDNA標的部位とのミスマッチやgapの許容はPAM配列からの位置に異存する
Variable tolerance for flaws along the guide RNA

Figure 1. ガイドRNAとゲノムDNA標的部位とのミスマッチやgapの許容はPAM配列からの位置に異存する

ガイドRNAがゲノムの他の領域と配列相同性を持っている場合、オフターゲットが発生する可能性があります。また、オフターゲットは、ガイドRNAとゲノムの間の不完全な相補性で発生することが示されており1、ガイドRNAがオフターゲットを引き起こす可能性がある場所を予測するタスクを複雑にします。ガイドRNAシード領域(PAMサイトの近位8~12 nt)内のミスマッチは、ターゲット認識を混乱させる可能性が高く、Cas9ヌクレアーゼはそのサイトで切断しないことが示されています(Figure 1A)。ただし、PAMから離れた場所ではミスマッチやgapに対する許容度が高くなり、オフターゲット切断の可能性が生じます(Figure 1B)。したがって、実験データの誤解につながる可能性があるため、オフターゲットゲノム編集につながる可能性のあるガイドRNAの使用を避ける必要があります。

すべての設計ツールが潜在的なオフターゲットサイトを特定するわけではない

公的に入手可能なガイドRNA設計および特異性ツールが多数ありますが、すべての潜在的なオフターゲットサイトを識別するわけではありません。その理由は、(a)RNA-DNAミスマッチのみを潜在的なオフターゲットサイトとして識別し、gapやbulgeを識別しない、(b)すべてのアラインメントを識別するほど厳密ではないことです。Dharmacon CRISPR specificity analysis tool は、複数のミスマッチを識別するだけでなく、オフターゲット識別のためにRNAとDNA配列間のgapも考慮します。これをまとめて「flaw」と呼びます(Figure 2A)。

1つの標的配列を選択し、我々のアライメントツールを他の公的に入手可能なガイドRNA設計およびアライメントツールと比較しました。すべてのツールは、「ゼロflaw」列に単一のアラインメントとして示されている意図したターゲット(完全一致)を検出し、すべてのツールは、単一のflawのアラインメントがないことを確認しました(Figure 2B)。しかし、我々のCRISPR specificity analysis toolは、1つのflawのアラインメントを超えて、2つのflawを持つ4つの標的部位を特定した唯一のツールであり、さらには3つのflawを持つアラインメントを多数特定でき、Dharmaconツールの厳密さを示されました。その後の実験では、2つのflawを持つガイドRNAが、予測されたオフターゲット遺伝子座で有意な編集をもたらすことが観察されました(data not shown)。このことから、潜在的なオフターゲットを含むガイドRNAを避けることは、細胞株の生成、in vivo、または治療への応用にとって特に重要と言えます。

Dharmacon CRISPR特異性解析ツールによるオフターゲットサイトのより優れた識別

Figure 2A. 潜在的なオフターゲットをすべて回避するには、ゲノムDNA標的部位とガイドRNA間のミスマッチとgapの両方をより厳密に特定する必要があります。B. Dharmacon CRISPR特異性分析ツールと他のCRISPRツールによって検出されたオフターゲットアラインメントの数の比較。

Edit-Rのデザイン済みガイドRNA:機能的かつ特異的なガイドRNAがデザイン済み

ガイドRNA(化学合成crRNAおよびレンチウイルスsgRNA)用のEdit-R独自の設計アルゴリズムは、特異性解析結果を組み込み、ヒト、マウス、およびラットのモデル生物に対する高い特異性とゲノム編集効率を実現する試薬をプレデザインします。遺伝子を検索して、利用可能なデザインから選択するだけで、注文できます。

CRISPR Design Toolと特異性チェック

CRISPR Design Tool–カスタムガイドRNAのオンライン設計および注文ツール

Figure 3.(A)遺伝子IDまたはDNA配列を入力すると、Dharmacon CRISPR Design Toolが(B)化学合成crRNAおよび/またはレンチウイルスsgRNAのターゲット配列を返します。

CRISPR Design Toolを使用すると、ガイドRNAの設計が簡単にでき、多くの実験アプリケーションに適用できます。カスタムガイドRNAを設計するには、2つのオプションがあります (Figure 3A)。

  • 遺伝子IDまたは遺伝子記号を入力
  • 設計用のDNA領域を提供する

CRISPR Design ToolはPAMを検出し、ゲノム配列に合わせて設計されたすべてのガイドRNAの特異性をチェックします。その後、自信を持って実験用のガイドRNAを化学合成crRNAまたはレンチウイルスsgRNAとして選択できます(Figure 3B)。遺伝子ターゲットごとに3~5のガイドRNAをテストして、細胞内で最も効率的なガイドRNAを特定することをお勧めします。

CRISPR Design Toolは現在33生物種まで設計できます。

CRISPR-Cas9ガイドRNAの機能性

最適な機能的ガイドRNAを選択するための基準を特定するために、GFPをリードアウトとするプロテアソーム機能の表現型アッセイを使用した、機能的な遺伝子ノックアウトに基づくアルゴリズムを開発しました。機能的なタンパク質のノックアウトを引き起こす可能性が高いガイドRNAを選択するためのEdit-R アルゴリズムの開発方法の概要をご覧ください。

References

  1. E.M. Anderson, A. Haupt, et al., Systematic analysis of CRISPR-Cas9 mismatch tolerance reveals low levels of off-target activity. J. Biotechnol. 211, 56-65 (2015).