マクロファージの分化を理解するための、全ゲノムCRISPRノックアウトスクリーニング



単球からマクロファージへの分化の摂動は、多くの疾患に関係していますが、何がこれらのプロセスを調節しているのかについてはまだよくわかっていません。Gisela Jimenez-Duranらによる最近の論文は、Horizon Discoveryによって実施された全ゲノムCRISPRノックアウトスクリーニングが、炎症誘発性マクロファージを調節できる既存の阻害剤をどのように同定したかをわかりやすく示しています。

なぜ著者はCRISPRノックアウトスクリーンを実行したかったのか?

CD14は、細胞表面マーカーであり、単球とマクロファージの両方で炎症誘発性シグナル伝達を増加させる細菌性リポ多糖(LPS)の共受容体です。これらの細胞は、免疫応答の一部として組織に動員されるため、複雑な分化段階を経ます。Jimenez-Duranらは、マクロファージ分化の調節因子を特定したいと考え、単球性白血病細胞株THP-1の全ゲノムCRISPRノックアウトスクリーニングのエンドポイントとしてCD14発現を選択しました。

Horizonはどのようにサポートしたか?

Horizon Discoveryの科学者が実施した全ゲノムスクリーニングでは、遺伝子ごとに6つのガイドRNAを備えたAll-in-oneのベクターライブラリを使用し、ガイドRNA当たりのRepresentationを300細胞以上に設定しました。レンチウイルスによる形質導入後、細胞をピューロマイシン含有培地で11日間培養し選択し、抗生物質を除去する前に編集を行い、エンドポイント表現型アッセイを実行する前に7日間細胞をバルク化しました。THP-1細胞をホルボールミリステートアセテート(PMA: phorbol myristate acetate)で48時間処理すると、CD14の発現が増加し、THP-1細胞が単球由来マクロファージ(MDM)様細胞に分化します。これらの細胞をDMSO処理したコントロールTHP-1細胞と比較すると、フローサイトメトリーで細胞をCD14陰性集団とCD14陽性集団にソーティングするためのゲーティングが規定でき、CRISPRスクリーニングの最後、NGSの前で、これらの集団でどのガイドRNAが増加または減少しているかを同定できます。

スクリーニングはうまく機能したのか?

スクリーニングから生成されたNGSデータセットの比較により、ノックアウトされたときにCD14発現が増加または減少した多くの既知および新規の遺伝子標的が同定されました。このスクリーニングが機能したというエビデンスとしては、おそらく予想にたがわず、CD14の発現と機能に影響を与えることが知られている他の遺伝子とともに、CD14を減少させたPMA処理細胞のヒットの1つとしてCD14が特定されたことが含まれます。

著者はヒットリストを用いて何をしたのか?

有望なターゲットを臨床的有用性に向けて迅速に進めるために、著者は、Horizonが独自の内部スクリーニングで使用したアプローチである、利用可能な小分子を使用して、潜在的なターゲット遺伝子とそのコード化タンパク質、およびそれらによって影響を受ける経路のいくつかを検証することを選択しました(参考ブログ:Cell panel screens play nicely with CRISPR screens)。THP-1細胞をPMAで処理した後、MMP9(matrix metalloproteinase 9)とCD14の発現、および細胞生存率を今回のエンドポイントとして使用しました。著者らは、PMA処理細胞でCD14発現を増加させ、DMSO処理した未分化THP-1細胞で同様の、しかし有意ではない傾向を示したPRKCD(protein kinase C delta)の阻害剤を特定しました。彼らはまた、2つの阻害剤を特定しました。1つは、スクリーニングでヒットした遺伝子の1つであるMAP2K3(mitogen activated protein kinase 3)を標的とし、もう1つはPMA治療後にCD14発現を減少させるEIF2AK3(eukaryotic translation initiation factor 2 alpha kinase 3)を標的とします。

これらの発見は初代マクロファージでも実施されたのか?

これらの発見をさらに検証するために、著者らはマクロファージモデルTHP-1細胞株から初代ヒトマクロファージに切り替えました。初代マクロファージでは、MAP2K3阻害剤はCD14の発現を低下させ、マクロファージをより単球様の状態に戻し、細胞の生存率に影響を与えることなく、別のマクロファージマーカーであるCD16の発現に有意な影響を及ぼしました。対照的に、PRKCD阻害剤はこれらのマクロファージの分化状態にほとんど影響を与えませんでした。マクロファージの炎症性シグナル伝達に対するこれらの阻害剤の影響は、マクロファージをLPSに曝露し、インターロイキン6(IL-6)、IL-1β、腫瘍壊死因子α(TNFα)などの炎症誘発性サイトカインの産生を測定することによってさらにテストされました。PRKCD阻害剤ではなくMAP2K3阻害剤は、CD14発現への影響と一致して、これらのサイトカインの産生を有意に減少させました。

著者は何を結論付けたのか?

Gisela Jimenez-Duranらは、THP-1細胞株で全ゲノムCRISPRスクリーニングを実行し、小分子を使用して実用的なヒットを迅速に特定することにより、初代ヒトマクロファージの分化を妨害し、CD14依存性炎症を制限できるMAP2K3阻害剤を特定しました。著者らは、発見はタイムリーであり、炎症細胞から放出されるCD14の分泌型が重度のCOVID-19の患者で増加し、CD14がCOVID-19の一部の患者で明らかな「サイトカインストーム」の治療の標的になる可能性があるという示唆を裏付けると報告しています。

 

Written by Dr. Nicola McCarthy

Nicola McCarthy, Global Translational Science Liaison, Horizon Discovery

Nicolaは、Horizon DiscoveryのGlobal Translational Science Liaisonであり、Horizon には6年間勤務しています。 Horizon Discoveryに勤務する前は、Nature Publishing Group(現在はSpringer Nature)で、Nature Reviews Cancerのアソシエイト、シニア、そしてチーフ編集者として働いていました。10年のポスドク期間では、癌および心臓血管研究おけるアポトーシス(プログラムされた細胞死)を研究しました。Nicolaは、人体解剖学でB.Sc.を取り、英国University of Birminghamでプログラムされた細胞死研究でPh.D.を取得しています。

 

The Lancetが出版するEBioMedicineの全文はこちらから

Pharmacological validation of targets regulating CD14 during macrophage differentiation. Jimenez-Duran, G., et al. EBioMedicine 61 (2020) 103039 https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2020.103039

 

 

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