HAP1細胞の起源に関するFAQ



当社のHAP1ノックアウト細胞株はほとんどの遺伝子の研究に対する解決策となり、シングルクローンからお客様の細胞株作製に必要な時間やスクリーニングを経ずにその遺伝子の機能解明に役立ちます。当社のHAP1細胞は迅速なコンセプト検証実験や抗体バリデーションに利用でき、特定の遺伝子ノックアウト細胞株が望みのデータをもたらすかに関連する疑問にも答えます。

この記事では、HAP1がお客様のアッセイに適しているかどうかを判断していただくために、本細胞に関する一般的な質問について当社Scientific Supportチームがご説明します:
  • HAP1細胞の起源
  • ノックアウトができるまで
  • これらの製品の品質管理基準
1倍体細胞株で作製されたノックアウトの利点は何ですか?

ほとんどの正常ヒト細胞は2倍体、つまり2組の染色体をもっています。がん細胞株や不死化した培養細胞株では遺伝子のコピーが重複していることがよくあります。ノックアウトする細胞株を分析すると大半の培養細胞株が倍数体であることに気づかれるでしょう。これは、疾患の進行や細胞株の不死化、あるいは連続的な細胞培養の間に起こる染色体全体の重複や転座により、目的遺伝子のコピーが多数存在することを意味します。2倍体細胞株や多倍体細胞株で機能的ノックアウトを獲得するには、細胞内の遺伝子の全コピーに変異を入れる必要があります。CRISPRを用いてノックアウトを作製する際、遺伝子の各コピーにはDNAレベルでの様々な変異が生じ別々のRNA転写物が生成され細胞内で異なる表現型が現れうることがよくあります。

HAP1細胞株はほぼ1倍体です。つまり、この細胞は基本的に単一のアレルから転写された遺伝子のコピーを1つだけもっています。1つのアレルしか発現しておらず、ノックアウトは1つのアレルに対してだけ必要です。他の遺伝子コピーはありませんので、ノックアウトがマスクされたり別の表現型となることもありません。このような特性のためHAP1細胞は遺伝子機能のための有用な研究ツールとなっています。ノックアウト獲得までの時間を短縮し、さらに得られる結果の解釈も容易になります。

HAP1細胞とは?私の研究対象の遺伝子はこの細胞では1倍体ですか?

HAP1細胞株は骨髄性白血病患者由来の浮遊細胞株であるKBM-7(カタログ番号C628)から作製されました(Andersson, B et al Cancer Genet.Cytogenet 1987, Kontecki et al 1999 Exp Cell Res)。KBM-7細胞は、8番染色体の2コピーと19番染色体に重複している15番染色体の一部を除き、ほぼ一倍体です。

  KBM-7 HAP1 E-HAP
Catalog number C628 C631/C859* C669

Morphology

Suspension Adherent Adherent
Karyotype

Near Haploid
Except Chr 8 and
~300 gene duplication of Chr 15 in Chr 19

Near Haploid
~300 gene duplication of Chr 15 in Chr 19

Haploid
Philadelphia
Chromosome
Present Present Present

表 1 親細胞タイプの違い:*C859細胞は、自然に2倍体化した細胞を除去するためにソーティングが追加されており、スクリーニング用途に最適です。

これらの細胞は骨髄系であるため、KBM-7は骨髄性白血病細胞の典型的なマーカーであるフィラデルフィア染色体を有しています(Kotecki et al 1999 Exp Cell Res, Carette et al 2009 in Science)。

KBM-7細胞にYamanaka因子(Oct4、cMyc、Sox2、Klf4)を導入し、多能性を誘導しました。多能性は獲得されなかったものの、山中因子を導入した細胞からは接着性の線維芽細胞様細胞集団の増殖がみられました。HAP1細胞株はこのような細胞のクローン集団から獲得されました。

HAP1細胞はKBM-7細胞とは異なり、8番染色体はもはや2倍体ではありませんが、19番染色体には15番染色体の断片を保持しています(表 1参照)。重複している15番染色体の断片は約30 Mbで、330個の遺伝子を含んでいます。私たちはこのHAP1親株を使用してノックアウト細胞株を作製していますので、ご興味ある遺伝子が15番染色体にある場合、当社Scientific Supportにご連絡いただければ、その遺伝子がこの重複部分にあるかどうかをお知らせいたします。

提供されている複数の親(野生型)HAP1細胞株の違いは何ですか?

HAP1細胞には3種類の親株があります。HAP1ノックアウトクローンのいずれかをご購入の場合、親株が無料で付属されます(カタログC631)。ただし購入可能な親細胞株が他に2種あります。

当社では、C631と同じHAP1細胞(C859)をスクリーニングReadyとして提供していますが、これらの細胞ではいくつかの追加ソーティングを行い自発的に2倍体化した細胞を除いています。真の1倍体モデルを得るために、私たちはCRISPR-Cas9を用いて19番染色体中の15番染色体の重複を除去し、E-Hap(C669)細胞株を作製しました(Carette et all 2011 Nature)。この細胞株は依然としてフィラデルフィア染色体を有しています(表1)。

HAP1細胞は目的の遺伝子を発現しますか?

HAP1細胞はRNAseq解析によって特徴づけられています。この特徴づけによりベーサル未刺激条件でのこの細胞株の各遺伝子の相対的発現は既にわかっています。各HAP1遺伝子特異的産物ページには、この解析から得られたTPM(Transcripts per million)を掲載しています(図2)。TPMが3以下の遺伝子は、これらの細胞では発現なしとしています。重要なことは、当社の発現データは野生型HAP1細胞のデータであり、ノックアウト細胞株のデータではありません。細胞をノックアウトすると、細胞内の遺伝子発現プロファイルが変化することがあります。お客様は細胞株受領後にRNAおよびタンパク質の発現プロファイルデータをバリデーション、特徴付けを行う必要があります。

HAP1における遺伝子の特徴付けの中で、私たちはこれらの細胞株において極めて必須と考えられる遺伝子と2倍体の遺伝子を同定しました。このように遺伝子が必須遺伝子であるもの、あるいは複数コピーが存在する遺伝子については、そのノックアウト細胞株は弊社ウェブサイトでの販売表示はいたしません。ご希望の遺伝子のリストが見つからない場合は、Scientific Supportまでお問い合わせください。

HAP1細胞のシークエンシングを含む追加的な特性解析は独立して実施されました。(Essletzbichler et al 2014)

HAP1ノックアウト細胞はどのようにして作製されるのですか?また、どのようにしてノックアウトが得られたことを確認するのですか?

当社のHAP1ノックアウト細胞はCRISPR/Cas9技術を用いて作製されています。このプロセスでは、ガイドRNA(gRNA)がCas9ヌクレアーゼと複合体を形成し、Cas9を特定の遺伝子座に導き、そこでDNAを切断します。この切断は非相同末端接合によって修復、多くの場合indels(小さな挿入や欠失)が生じます。indelはフレームシフトを引き起こし、通常は遺伝子内に早期停止コドンを作成します。このような細胞はクローナルに増殖、ゲノムDNAレベルのシーケンシングでフレームシフト変異の存在を確認します。この変異した配列は、転写産物のNMD(ナンセンス変異依存分解)をもたらす早期停止コドンや異なる組成のタンパク質を生じさせるフレームシフト変異となります。使用したgRNAおよびサンガーシーケンシングの結果は、細胞株の分析証明書(certificate of analysis: CoA)に記載されています。gRNAとCas9はどちらも細胞内で一過的に発現しているため、これら成分は最終的に作製された細胞株から失われ、細胞はユーザー様のご判断で今後お好きなようにお使いいただけます。これらのノックアウトの作製方法についてはこちらのビデオをご覧ください。

研究者様のアッセイはそれぞれ異なるので、ノックアウト細胞が野生型とどの程度形態的・機能的に異なるかの確認には、細胞株受領後にさらなる特性解析の実施をお勧めします。

HAP1細胞は2倍体化しますか?

HAP1細胞は自発的に2倍体化することがありますが、これはこの細胞生物学の通常の一部です。通常10継代あたりから観察され始め、20継代には完全に2倍体になるHAP1細胞株もあります。当社では細胞が1倍体のときにノックアウトを作製するので、その後の2倍体化はもう一方のアレルにノックアウトが生成されるのみです。つまり、細胞のノックアウト状態は2倍体化によって影響を受けません。

ほとんどの細胞集団は1倍体細胞と2倍体細胞の混合プールであるため、細胞株から1倍体HAP1を分離、増殖が可能です。1倍体HAP1は2倍体HAP1のおよそ半分の大きさです。特定のアッセイに1倍体集団が必要な場合は、7~10継代のHAP1細胞を使用し、フローサイトメトリーでサイズ別にHAP1を濃縮することをお勧めします。初期の継代で細胞を凍結することにより、この1倍体集団に戻すことも容易になります。1倍体と2倍体のHAP1の違いについての詳細は、Beigl et al. Biology Open.2020をご参照ください。

野生型細胞株とノックアウト細胞株を区別して検出するにはどうすればよいですか?

当社のHAP1ノックアウトを作製にはCRISPR/Cas9が使われており、遺伝子の最初の部分で早期終止コドンやフレームシフトを導入しています。検出法によっては、ノックアウト細胞と親細胞株の違いが検出できない場合があります。ノックアウトを確認する最もよい手法は、変異株と親細胞株のこのような違いを明確にする十分に検証された機能アッセイです。

RT-PCR による mRNA の検出では、機能とは無関係なインデルをもつ転写産物をみているかもしれません。抗体の正確なエピトープが未知で特徴付けもされていない場合、抗体を用いた細胞株のバリデーションも困難です。(抗体のバリデーションについてはこちらの記事をご参照ください。)ノックアウト後にタンパク質がどのような影響を受けるかについては、こちらのビデオをご覧ください。

HAP1の培養条件は?

HAP1細胞には特定の培養条件があり、提供プロトコールに従って培養する必要があります。HAP1細胞はコンフルエント75%以下のコンフルエンシーを保つようにして下さい。培養条件にもよりますが、倍加時間は約12~16時間です。HAP1細胞は接着性ですが、S期でDNAを複製する際に細胞が丸くなりプレートから剥離することが確認されています。細胞の解凍時やシングルクローン単離の際は、細胞を残し引き続き分裂できるよう半量の培地のみ交換してください。HAP1培養プロトコールはこちらからご参照ください。さらに、「HAP1細胞で成功するためのセットアップ」という別のブログ記事で、これらの細胞を維持するための追加のポイントについて説明しています。

私の研究でHAP1細胞株をどう活用できますか?

HAP1は強力な研究ツールです。HAP1ノックアウトは抗体のバリデーションに重要であったり、より複雑なノックアウトを作製する前のコンセプト検証として使用されたりします。HAP1がどのように利用されているかについては、こちらのブログ記事「Beyond the Western Blot」をご覧ください。

HAP1ノックアウト細胞についてご不明な点がございましたら、Scientific Supportまでお電話、チャット、またはtechnical@horizondiscovery.comからご連絡ください。

以下のリソースでさらに学びましょう。
  • なぜ遺伝子に対して複数のHAP1細胞株があるのですか?納品までの期間はがかかりますか? Blog Article
  • HAP1細胞を用いた効果的な実験:親細胞株と変異細胞株、培地コントロール、アッセイ検証、倍数性 Blog article
  • ウェスタンブロットの枠を超えて HAP1細胞の優位性 Blog article
  • HAP1細胞の参考文献 リーディングリスト Reading list
  • HAP1細胞を用いたトップクラスの査読付き科学論文 Blog article
  • HAP1 FAQs Blog article
References
  1. Essletzbichler P. et al., Genome Res. 2014. Genomic characterization of HAP1 cell line.
  2. Dong M. et al., Neurology 2014. HAP1 knockout cell line for evaluation of pathogenic mutations using phenotype rescue experiments;
  3. Kravtsova-Ivantsiv Y. et al., Cell 2015. HAP1 knockouts of KPC1 and KPC2 support role of KPC1 as E3 ligase that mediates processing of NF-kB1 p105 to p50; Carette et al. Nature. 2011.
  4. Ebola virus entry requires the cholesterol transporter Niemann-Pick C1; Lackner DH et al. Nat Commun. 2015.
  5. A generic strategy for CRISPR-Cas9-mediated gene tagging. Essletzbichler, Patrick et al. “Megabase-scale deletion using CRISPR/Cas9 to generate a fully haploid human cell line.” Genome research vol. 24,12 (2014): 2059-65.
  6. Beigl et al. Efficient and crucial quality control of HAP1 cell ploidy status. Biology Open. 2020
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